海に花びら
私が働いている船では、
キャビンの中のテーブルやカウンターに
蘭の花びらを散らばせてます。
トロピカルなイメージを出すために(だと思う)
ある日のクルーズで、
ひとりの女性のお客さんが、
その蘭の花をいくつかもらっていいか
他のクルーに聞いていた。
両手いっぱいの蘭の花びらを抱えてキャビンの外に出てきた
その女性に、「レイでも作るの?」と話しかけたら、
その女性は、
「4年前の今日、息子を亡くしたの。
その息子にこの花をおくりたい」
と言った。
それから、
フロントデッキへ行って、
その花びらに口づけして、何かをつぶやいたあと、
その花びらたちを海へ飛ばした。
水面に降りて、どんどん遠ざかっていく花びらたち。
少し離れたところから、
見ていたわたしは、その光景に思わず涙。
その女性のために何かを祈らずにはいられなかった。
その女性に何かひとこと伝えたかったんだけど、
何を伝えていいかわからず、言葉がおもいつかず。。。
そういうわたしの気持がわかったのか、
目に涙を浮かべながら、微笑みかけてくれたその女性に
心を込めてハグをした。
仕事からの帰り道、あの場面が頭から離れない。
自分はいったい何を伝えたかったんだろう。
どういう言葉をかけるべきだったんだろう。。。
思いつく言葉は、どれもあの瞬間に当てはまらない。
その日のクルーズは波もおだやかで、
空も晴れやかで、透きとおっていた。
彼女の微笑みのように。
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